作品42 ゆずの香り
冬至といえば、かぼちゃとゆず湯。好き嫌いが分かれるらしいが、私は両方大好きだ。今年は、かぼちゃを煮物と団子にし、柚子は親戚から頂いて風呂に浮かべ、楽しんだ。
それが昨日のこと。やっぱりいつもと違う風呂って気分が上がる。
少し鼻歌をしながら登校する。やけに量の多い階段を登り、友達におはよーと挨拶し、席に向かう。
窓側の一番うしろの席。この季節だと太陽の光で暖かいし、暖房はいい感じの距離にあるから、控えめに言って最高。しかも隣の席はクラスで一番頭がいい天才さんだから、近くの私は先生に当てられづらい。すべてが最高。
机にカバンを置き、椅子に腰掛ける。外が寒かったぶん、暖房がよりありがたく感じる。
ぬくぬく暖まっていると、隣の天才さんから話しかけられた。前髪を整える。
「なんかいいにおいするね。柚子?」
慌てて髪の匂いを嗅ぐ。
「ほんとだ。」
「香水?」
「いや、昨日冬至だったからだと思う。ほら、ゆず湯。」
なるほどと、納得したように天才さんが目を細める。かっこいいしかわいい。
「昨日だったんだ。」
「知らなかったの?」
「うん。ゆず湯入れなかったな。」
それはなんと。
「残念だね。」
「あ、でも。夕飯にかぼちゃは出てきたよ。」
「でもお風呂はいつも通りと。」
「いや、入浴剤入ってた。」
「え?ゆず?」
「いや。檸檬の入浴剤。」
「何故……。」
「お母さん、柑橘類の見分けついてないから?」
「全くの別物なのに。……あ、あれじゃない?んがつくからじゃない?」
何を言ってるんだと顔をされてから、気づいた顔をする。
「ああなるほど!そういうことか。」
「ね!」
「でも食べてないから意味ないかもね……。」
「そうだね……。」
そこまで話して、チャイムがなる。先生が教室に入ってきて、ホームルームがはじまった。
天才さんに向けていた体を前に向きなおし、顔を下に向け、細く長く息を吐く。顔がどんどん赤くなっていくのを感じた。
私、ちゃんと普通に喋れてた?なんかすごいどうでもいいことしか話してない気がする。え、変な人とか思われてないよね?
今更ながら手鏡で顔を確認する。前髪よし。先生にバレない程度の控えめメイクよし。肌の調子よし。
大丈夫。今日はちゃんとかわいい。まあ、そのためにいつも頑張ってるからだけどね。
手鏡をポッケにしまい、天才さんをチラ見する。
私は隣の席の人、天才さんが好きだ。
⸺⸺⸺
檸檬の花言葉“心から誰かを愛しく思う”
柚子の花言葉“恋のため息”
ネットで調べただけなので正しいかはさておき、珍しくキャピキャピ系です。
柑橘類の見分けがつかないというのは、かも肉自身のことです。わあ恥ずかし。
12/22/2024, 2:12:40 PM