ガルシア

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 善悪の境界ほど曖昧なものもない。悪行だって状況が変われば善行になり得るし、逆も然りだ。俺が今してることだって、人が欲するものを与えているという善行でありながら、世間一般の感覚では悪行にカウントされる。厄介なことこの上ない。
 白く細い腰を両手で掴んだまま、腹の中を抉り続ける。仔猫の鳴き声のような嬌声は愛らしく、縋りつくように背中に回された手に爪を立てられることさえ興奮材料にしかならない。旦那にすら見せていないであろう乱れた姿は優越感を満たすには十分だった。
 状況だけ見れば、既婚者を犯す悪人だ。しかしそれを望んだのは売られるように嫁いだ彼女の方で、この行為は彼女の不幸な人生からの現実逃避。愛は婚約した男とではなく俺との間に。
 旦那としたんだろ、俺で上書きしていいのか。
 小さな耳の横で低く問えば、きゅうと締めつけられるのがわかる。世間の中で悪と糾弾されることは心底腹立たしいが、この背徳を貪れることに関してだけは、善悪とかいう不確定要素に感謝しよう。


『善悪』

4/26/2023, 11:20:16 AM