谷間のクマ

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《魔法》

「もしも魔法が使えたら?」
 そんな質問をあたし、中川夏実はみんなにぶつけてみる。

「魔法? うーん、空を飛んでみたいかも」
 まずは明里の答え。
「現実主義の明里にしては珍しい答えだね」
「いーじゃないの別に。魔法なんて夢の中の話なんだから、フツーはありえないこと言っとかなきゃ損損」
 た、確かに〜。

「魔法、ですか? そうですね……、瞬間移動とかできたら便利そうですよね」
 続いて紅野くんの答え。
「確かにこの町無駄に坂しかないもんねー」
「山ばっかだから仕方ないのはわかるんですけど疲れますしねぇ……」
 だよねー。

「魔法? そーだなー、好きなだけ野球したい! じゃなかったら蒼戒と一緒に旅行とか行きたい!」
 次はハルの答え。
「それ魔法関係なくない?」
「いーじゃんこんな時くらい夢見たって!」
 さすがは弟バカ。ブレないねー。

「魔法? そんな非現実的なものは信じないが……使えるとしたら過去に行ってみたいな」
 最後は蒼戒の答え。
「珍しく蒼戒が夢のあること言ってる……。明日の天気は槍?」
「あのなぁ、聞いてきたのはお前だろうが。というか今忙しいんだ。用がないならさっさとそこ退け」
 あ、ごめんねー。

「魔法、ねぇ……」
 みんなの答えを聞き終わったあと、あたしはゆっくり考える。
「夢のあること、だよねー……。動物と話してみたい、とかでいいのかな」
 ちょっとメルヘンチックすぎるかな。
「あたしも過去に行ってみたいかもなー」
 行ったところでどうするんだって話だけど。
「じゃあ反対に未来とか?」
 確かにあたしが将来何をしてるのか、とか明里のパートナーは、とか気になるけど。
「まあ別に魔法がなくなって困んないし実際ないものだし考えたって仕方ないや〜」
 というわけであたしはさっさと思考放棄して今日の夕飯の献立だとかやらなきゃいけない課題だとかのことを考え始めた。
(おわり)

2025.2.23《魔法》

2/24/2025, 5:41:09 AM