夜汽杏奈

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「梅雨」

繋いでいた手を離し
路面電車に乗る私
貴方はホームで
透明傘をさしたまま
時折、照れたように下を向き
出発するまで
いつもその場にいてくれた

雨の日は特に
見送らなくていいよって
何度も言っているのに
買い物する気もないくせに
買い物するついでだからと言う
相合い傘をしてくれた貴方の肩はいつも
片側だけ濡れていた

しとしと降る雨
アスファルトに小さな雨粒が
引き寄せられ
足元が濡れても
世の中がすさんでも
引力で出逢ったと言った貴方の
そばにいて笑っていた頃は
世界中の悲しみも苦しみも消えたかに思え
世界はきらきら輝いて見えて
全てが真新しくて
全てが優しくて、あたたかくて
寂しい涙を流した記憶は
一度もなかった

二人お腹を抱えて笑い転げ
夢を真剣に語っては眠り
大きな優しい腕と
ムーミンの置物と古いテレビの部屋で
全てを許してくれる
宇宙のような
大きな愛に包まれていた

あまりにも自然で
あまりにも自由で
空気のように当たり前に甘えて
全ては永遠に続くものだと思っていた

時は過ぎ
楽しかった思い出は色褪せることなく
一人泣く夜も
日々の生活の糧になっている

いつか何処かで
それはきっと次元を超えて
白髪だらけの私になって
もし、私が三途の川を渡って船を降り
迷子になったら
もし、次元を超える列車から降り
戸惑って動けなくなったら

そこに引力がなかったとしても
その時はきっと助けてね

そして「ありがとう」と言わせてね


















6/1/2023, 3:18:29 PM