『この場所で』
猫が目の前を横切った。
リズミカルに鈴の音を鳴らし、右から左へ。
優雅に過ぎ去っていった。
一見、私の事など気づいていないような素振りだが、
その実ちゃっかり、尻尾を振って誘惑しているのは明白だろう。
当然、頭では理解している。
しかしながら、体は正直というもので、私はまんまと彼女の後を追いかけることとなった。
「ミャーン」
「……‼︎」
何たる甘い鳴き声か。
危うく失神するところだった。
しかし幸いにも、
今日の私は、幸運の女神に祝福されている。
なんと、右ポッケに入れていたナイフが、偶然太ももに突き刺さり、かろうじて気絶を免れることが出来た。
私は右脚を引きずりながら、子猫ちゃんを追いかけていく。
「ミャー」
「……⁉︎」
危ないところだった。
また私は気を失うところだった。
よろめいたとき、体を電柱にぶつけてしまった。
しかしながら、幸いにも内ポケットしまっていた粉末の殺虫剤は破れずに済み、舌を噛むだけで済んだ。
そうして私は、彼女を追いかけるため、路地裏の深いところまで進んで行った。
「ミャオ」
相変わらず子猫ちゃんは甘ったるい声を上げていた。
そして、電柱の前に片足を上げ始める。
「……な゛んだと⁉︎」
まさか子猫ちゃんは、この場所でするつもりなのか。
こんな薄暗いーーー路地裏の隅っこなんかで。
次の瞬間、私は貧血のあまり、地面に倒れ込んでいた。
2/11/2026, 1:53:48 PM