「花束を送ろう。君に、トーマス・ライト」
白髪の男は言った。
僕は感情に任せて、胸ぐらをつかみかけたがやめた。
今感情的になるのは、あまりいい事とは言えない。
地に落ちた花束を、僕は拾った。
ジャカランタの花束。花言葉は、栄光。
僕の好きな花を、僕が王になる時に送ってくれたこの友人は、今までどこに隠れていたのだろう。
屋敷は引き払い、彼が隠遁したのは、約五十年前。
僕が、彼と最後に交わした言葉は、
「十字軍の遠征に、君は付き合わないのか」
彼は叙階した騎士だった。
最近その爵位に着いた彼は、将来を有望されていた。
彼は額を落とした。
そして、僕にかしづいて深くこうべを垂れた。
「トーマス、栄光を得るのは君だ。未来のバレンシア王に幸いを」
その時僕は十六歳で、丁度成人の儀を迎えたばかりだった。
2/9/2024, 10:12:22 AM