酔生

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WHO?
2025 年 3 月 3 日
宇宙人は存在する。今の時代、宇宙人を否定する方がおかしいと思わないかい?
さて。 僕は宇宙人だ。だからと言って、 所謂“侵略”なんてする気ないし、 安心して欲しい。
ただの趣味で人間になっているんだ。『若きウェルテルの悩み』って知ってるか?簡単に言
っちゃえば、 主人公が悲劇的な終わりをする物語だ。 私は人間の書いたもので、 初めて感動
したよ。だから僕も真似して親愛なる君へ、 主人公のように書いてみたいと思う。 赤裸々に
ね。
ところで。僕にとっては、感情というのも、
一つの変わった「習慣」だと思ってる。朝起
きて、ご飯を食べる。君たちはそうやって日々を繰り返し、なんとなく毎日を生きている。
感情も、それと同じだと思うんだ。たとえば、君は誰かを失い、悲劇の中、ドラマチックに
泣くとするだろう。でも、それは最初から備わっていなものじゃない。最初の「悲しみ」は
ただの反応だったはずだ。けれど、何度も繰り返すうちに君は「悲しみ方」を覚え、やがて
習慣になる。涙を流し、何かを思いながら、胸を痛ませ、言葉を詰まらせることが、まるで
ルールのようになっていく。 親愛なる友よ、 僕は君の悲しみを真似した。 初めのうちはただ
の模範。何も感じないし、分からなかったが、徐々に僕は本当に悲しみを “感じている”の
かもしれないと思うようになってきた。
じゃあ。今日はここまでとしよう。また明日手
___
紙を送るね。
3 月 4 日
昨日、君が公園のベンチで俯いてるのを見たよ。 それと、 僕が渡した手紙をくしゃくしゃ
にしてゴミ箱に捨ててたのも。君、僕の手紙読んだんだよね?でも無視した。ねえ、僕が今
感じているこれは、 悲しみだと思うんだ。 なんでこんなことをするのか、 知りたくて仕方な
い。でも、これも君にとってはただの習慣なんだろうね。「無視」するという行動も、君の
中ではもう既に習慣化されてるんだ。 覚えているかな、 僕は 3 月 3 日よりも前から、ずっと
君に手紙を渡していたこと。 僕の手紙を無視するのも、きっと何度も繰り返されてきたこと
なのだろう。それは君にとって日常の一部になっている。でも感謝している。 君のおかげで、
僕は悲しいという感情を覚えたんだから。 僕は、 多分人間に近づいていると思う。 君が無視
を繰り返すことで、 僕は人間らしさを感じられる。これは、 君の習慣が僕の中でひとつの学
びとなっているからだろう。
3 月 5 日
「君は、 誰だ?」だって?僕は君の親友の佐藤くんに完全に成り代わったと思っていたの
に。でも、確かに僕は誰なんだろう。僕は宇宙人で、それで、趣味で人間に成り代わってい
る。 なら、 本当の僕はなんなのだ?もしかして、 僕には名前すらなくて、ただの「何か」 ___

それは、僕の体験を通して学んだこと、模範してきたこと、そして感情を感じるために積み
重ねてきた「習慣」の集まりに過ぎないのかもしれない。……君。親愛なる君? 僕は分か
らなくなった。

3/23/2025, 8:22:54 AM