夜の祝福あれ

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君がいた季節

東京の秋は、やけに静かだった。

駅前のカフェで、澪はコーヒーを冷ましながら、窓の外を眺めていた。歩道を行き交う人々の中に、彼の姿はない。もう、二度と現れることはないのだと、澪は知っていた。

「永遠に一緒にいよう」
そう言ったのは、春の終わりだった。桜が散り始める頃、陽翔は笑っていた。あの笑顔は、澪の記憶の中で、今も鮮やかに残っている。

けれど、永遠なんて、なかった。

陽翔は、突然いなくなった。事故だった。電話一本で、澪の世界は音を失った。

それからの毎日は、まるで色のないフィルムのようだった。笑うことも、泣くことも、うまくできなかった。時間だけが、無遠慮に過ぎていった。

今日、澪は陽翔が好きだったカフェに来た。彼がいつも頼んでいたキャラメルラテを注文し、窓際の席に座った。隣の席は空いている。そこに彼が座っていた記憶が、澪の胸を締めつける。

「永遠なんて、ないけれど」
澪は、そっとつぶやいた。
「それでも、あなたを忘れない」

外では、風が銀杏の葉を舞い上げていた。季節は巡る。人は変わる。記憶は薄れていく。

それでも、澪の中で陽翔は生きている。声も、仕草も、あの春の約束も。

永遠なんて、ない。
けれど、心に残るものは、確かにある。
それは、誰にも奪えない。

澪は、冷めたコーヒーを一口飲んだ。少しだけ、甘かった。

お題♯永遠なんて、ないけれど

9/28/2025, 12:10:31 PM