竹崎セン

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1枚の紙切れさえあれば救えた命もあったのかもしれない。
お金は全てではないと言うけれど、あの日の光景がそう思わせてはくれない。
幼い頃の記憶で思い出すものといったらブラウン管の明かりだけが頼りの薄暗い部屋。両親は常に言い合いをしていた。ある日父親は突然「死んでくる」といって足の悪い妹を連れて車で家を出ていった。母は怒り狂って追いかけた。私は一人部屋に残されただそこにいた。
それからしばらくしてサイレンの音がして玄関のチャイムが鳴った。

大人になってから、あのときの出来事を比べてドラマを見ている時がある。
私は何があったか内心理解していた。そして、母も妹ももう私のもとには戻ってこないのだろうことも理解していた。

父親が運転する車の前に飛び出した母親が轢かれてそのまま玉突き事故を起こしたらしい。父親と妹もそのとき死亡したらしい。

父親の親は私が生まれる前に亡くなっていたし、母親は父親の借金のことで実家から勘当されていた。必然的に私は天涯孤独になった。

今でも母の泣きながら怒る声と、妹の父に抱き上げられ泣き叫ぶ声が頭から離れない。
父親は母から金をせびるために脅しのつもりで妹を連れて行ったのだろう。いくら幼くとも自分の父親がどんな人間か私は知っていた。
あの日お金を渡していれば母も妹もまだそばにいたのだろうか。

生きるためにはお金が必要だ。それもあればあるだけ良い。

養護施設に入れられて社会に出るまでに私は兎に角それを学んだ。

お金がなければまともに衣食住も成り立たない。学校にもいけない。就職だってなかなかできそうにもない。

お金より大事なものなんてない。
結局はそういうことだ。わかってはいるのだ、それでもお金のない自分には生きていく価値すらないのだと言われてしまっているようで度々虚しくなるのだ。


お題【お金より大事なもの】

フィクションと少し実話です。

3/8/2026, 11:24:26 AM