誰だもが知らずの語り屋

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『灰の約束』

夜の駅。
モノクロに沈んだ世界で、彼は立っていた。
風が吹くたび、コートの裾が揺れる。
ホームには誰もいない。電車も来ない。
ただ、時計の針だけが、止まったまま過去を刻んでいた。

彼の手には、古びた写真。
そこには、笑う少女が写っていた。
だが今、その笑顔は灰色に沈んでいる。

「約束、守れなかったな…」
彼は呟く。
あの日、彼女は言った。
「もし私が消えても、モノクロの世界で待ってるから」
それは冗談のようで、祈りのようだった。

そして今、遠くで電車の音がした。
ホームの向こうに、誰かが立っていた。
白いワンピース。黒い髪。灰色の瞳。
彼は歩き出す。写真をポケットにしまい、
モノクロの世界を、もう一度生きるために。

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彼女はずっと、そこにいた。
色のない世界で、風に吹かれながら。
季節も感情も、すべてが灰色に沈んでも、
彼の声だけは、記憶の中で鮮やかだった。

「もし私が消えても、モノクロの世界で待ってるから」
その言葉は、彼女自身への呪文だった。
時計の針が何度も同じ時刻を指しても、
彼女は立ち続けた。
なぜなら、モノクロは約束の色だから。

そして今、彼が来た。
足音が、過去を踏みしめて近づいてくる。
彼女は微笑む。
「遅いよ」
その声は、灰の中で最も鮮やかだった。

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彼の「ただいま」に、世界が揺れた。
最初に染まったのは、彼女の瞳。
灰色だったはずの瞳に、琥珀が灯る。
それは、彼と過ごした秋の記憶。
落ち葉の舞う坂道、風に吹かれた笑い声。

彼女の髪は、夜の黒から月の銀へ。
ワンピースは、白から淡い藤色へ。
色は、記憶から戻ってくる。
忘れられた感情が、世界を塗り替えていく。

写真の中の少女の頬にも、紅が差していた。
「約束は、記憶じゃなくて、未来だったんだね」
彼女の言葉に、駅の時計が動き出す。
針が、止まっていた時間を追い越していく。

空に、朝焼けが差し込む。
それは、モノクロの世界にとって初めての“色”。
赤でも橙でもない。
それは、“約束の色”。

二人は歩き出す。
ホームを越えて、灰の世界を抜けて、
色のない世界に、色を灯すために。

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なんか今日のは眠たい状態で書いたので多分(っ﹏-) .。
色々世界観が飛んでます

9/29/2025, 4:43:17 PM