《カレンダー》
「すみません。よければですが…この日に印を付けてもいいでしょうか?」
ある日、彼女がカレンダーを指さしておずおずと僕に聞いてきた。
「ええ、構いませんよ。」
闇の眷属に魅入られた者として彼女を監視している僕としては、その予定などを把握出来るのはむしろ都合が良い。
当時はそのような考えもあって、彼女の希望を受け入れた。
すると彼女はそれを聞き、それは華やかな笑顔を僕に向けてきた。
「ありがとうございます! じゃあ、失礼しますね。」
先程のおずおずとした態度から一変、心の底から嬉しそうな様子になると、カレンダーを捲ってある日付に赤いペンで花丸を書き込んでいた。
「一体その日に何があるのですか?」
不思議に思い、赤いペンに蓋をした後も嬉しそうにしている彼女にそれを尋ねるも、
「うーん…うん、秘密、です。」
と、少しはにかんだ様子でそう答えるだけだった。
今になれば分かる事だが、その日は彼女にとって本当に嬉しい特別な日なのだろう。
あの笑顔は、彼女が心底喜んでいる時の表情だ。
何か悪事を企んでいるわけでも、それを実行しようと目論んでいるわけでもない。
しかしだ。ならば、尚更分からない。
今日、壁のカレンダーを見る。
彼女の書いた花丸の日付は、3日後。
果たして、その日に何があるのか。
カレンダーの前に立ち、愛おしそうにその花丸を指で擦る彼女にまた同じ質問をするも、心の底から嬉しそうに、それでもはにかんだ様子で、
「…今はまだ、秘密です。」
そう答えられるだけだった。
その後、紆余曲折を経てその日付の秘密を知る事になる。
それはとても信じ難く、しかしそれを遥かに上回る喜びに満ちた日であった。
9/11/2024, 1:20:45 PM