『病室』2023.08.02
いささか適当に渡された紙袋。その中には一冊の雑誌が入っていた。
確かに暇は潰れるかもしれない。病室という閉鎖された空間で、気晴らしというのも必要だろう。
しかし、その手段がエロ本というのはいかがなものだろうか。しかも、ナース服をはだけさせた綺麗なお姉さんが表紙というのは、新手の嫌がらせのつもりだろうか。
そんな文句を言うと、雑誌をもってきた彼はまるで心外だとでも言いたげな顔をした。
「みんなやってるんだから仕方ないだろ」
彼の言うみんなが誰を指しているのか。きっと彼より前に来て、同じようにお姉さんの雑誌を渡してきたあの男の事だと察した。しかも、雑誌の内容も被っていないのだから、すごいとしか言いようがない。
これでナースもののエロ本が二冊。他にこういった『気遣い』をしてきそうな男が四人ほどいる。彼らもきっと、同じジャンルのエロ本を差し入れてくることだろう。
「手を折らなくてよかったね」
にっこりと彼は笑う。何が言いたいんだか。
こっちは足を骨折して、あちこち打撲をしているというのに。
ネチネチ言うと、彼は困ったように笑って頭を撫でてきた。
「そのぐらいの怪我で済んで良かったよ。早く治るといいな」
そんな優しい言い方をされては、それ以上文句を言うこともできず、頷くことしか出来なかった。
そして最終的にエロ本は六冊になった。
8/2/2023, 11:21:37 AM