「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。目の前に人がうつ伏せで倒れている。出血量は多く、放っておくと死にそうだ。傷口はどこか探すが、見つからない。血が出ているなら、傷があるはずなのに。
「無駄だよ」
倒れていた人がこちらに顔だけ向け、息も絶え絶えに話す。口からも話す度に出血している。
「これは、自分の体の傷じゃないんだ」
説明を聞くと、この人は他の人の痛みを代わりに受ける仕事をしているらしい。
「でも傷口は本人の方にあるんだ。だから、自分にこれを治す術はない…」
大きく咳き込み、血がまた地面に飛び散る。
「だったら、その本人に…」
「会えたら良かったんだけど、仕事の機密保持とかもあるし、何より複数人いるから」
それでは何も出来ない。だったら、せめて痛みを和らげるものはないかと探していると、彼と目が合った。彼は私を安心させるためか微笑みかけてきた。
「自分の痛みに敏感な人間ばっか会ってきたけど、優しい人もいるもんだね」
「痛みを他の人に分けることは出来ないの?」
「出来れば良かったんだけどね…。…ほら、早く行きなよ。死ぬ瞬間を見られたくないし、見たくないでしょ…」
私は首を横に振り、彼の手を握ると弱々しく振り払われた。
「駄目だよ…あなたの手が汚れちゃう…」
立ち上がり、彼に背を向けると彼が弱々しく呟いたのが聞こえた。
「そう、それでいい…いいんだ」
本当にこれでいいんだろうか。彼はああ言っていたが、看取るぐらいは許されるんじゃないか。誰にも知られず、一人でひっそりと死ぬなんて寂しすぎる。やっぱり、一人にしたら駄目だ!私が振り返ると既に彼は消えており、ただ赤が地面に飛び散っているだけだった。

4/5/2026, 7:16:30 AM