俺は恋人というのが嫌いだ。
「ねぇ、ここはどこかしら」
「わからない、帰っていたはずなんだけど」
「大丈夫? 怪我はない?」
今も画面の向こうの恋人たちを見ているだけで吐き気がする。
永遠の愛なんて語って、ありもしない将来に花を咲かすなんて、胸焼けがする。馬鹿馬鹿しい。本当の愛などそこにあるものか。
「おはよう二人とも、よく眠っていたね」
部屋のモニターに誰か映る。口元だけがマスクをつけた人物、体格から男に見える。
「お前は何者だ、なんで僕たちをここに閉じ込めたんだ」
「そうよ!なにが目的なの?」
「そうかっかしないでください。私は単に愛を証明していただきたいだけなのです」
文句を言おうとする僕たちをさえぎって、彼は説明を続けた。
「今からこちらの決めた期間中、この部屋で過ごしていただきます。
ここにはお手洗いもありますし、食事なども支給しますので、ご安心ください。」
なにが安心かさっぱりわからない。
「それだけか?期間はどのくらいなんだ?」
「ええ、それだけです。期間についてはお教えすることはできません。私が愛は証明されたと思うか、どちらかが亡くなるまででしょうか。」
それは永遠ということだろうか
そこからはなんら変わらない日々が続いた。
食事が提供され、身体を拭くタオルもある。
地面は柔らかく寝るのには問題なかったし、娯楽として本やゲームも提供された。
「そろそろ貸してくれないかしら」
「ごめん、もうちょっとだけいいかな」
「わかったわ」
まるで家にいるのと大差がない。風呂に入れないし、外に出れないのはあるが、あまり悪い様には感じなかった。だけど。
「ねぇ、僕の分の食事知らないかな」
「さぁ、これしかなかったけど」
食事するときに僕の分がないことがある。
数少ない娯楽だというのに、彼女が食べているのか。
「少しあげるわ、お腹すいちゃうでしょ」
「ありがとう」
「隠してるんだろ!」
「そんなことないわ、これしか本当にないの」
「嘘つき!きみは僕より早起きだから、そんなことするんだ!」
一度疑うと感謝が消え、次第に険悪になっていった。
お互い、細かいことにも文句をつける様になった。
「そもそも私にもそれ貸してくれなかったじゃない!話すのもやめて、なんでそんな酷いこと言うの!あなただって悪いじゃない!」
喧嘩、唯一の話し相手なのに。
永遠を誓ったのに、いつからこうなったのか。
ある日、食事ではなく別のものがあった。
一本のナイフ。彼女は寝ている。
……一人死ねば…
血みどろの画面に悪趣味な男が姿を現す。
「すばらしい!これこそ俺の見たかったものだ!
ということで、俺の目的は果たされたので君は解放だ。また目覚めたら、素晴らしい朝日が迎えてくれはずさ」
私にとっては悪夢のようだった。
『愛のためならなんでもできる?』
5/17/2023, 11:44:10 AM