シュグウツキミツ

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誰か

誰か いないか どうか 気付いてくれ 私は 間違っていた 望みなど 捨てるべきだったんだ 決して 不満なわけではなかった なのに なのに なんで

捨てるつもりは なかったんだ 仕事も あった 友達も いた 恋人も いた いた欲しかった いたのに

確かに 収入は 少なかった 買いたいと思っても やりたかったことも 諦めたものもある だが 生活するだけならば 十分だったんだ

欲しかった 物があったんだ こんなに欲しくなるなんて 初めてだったんだ フェンダーの エレキギター 本当に いい音だったんだ あの音で 私は 夢を みてしまったんだ

今までの 収入では 買えなかった 仕事は フルタイムだから ダブルワークは無理だった 働いたさ 働いたけど 足りなかった

だから あの男の 言うことを 聞いてしまった 何が 高収入だ 何が 簡単な仕事だ 何が スキマ時間だ 何が 君には才能があるだ

何が 行けなかったのか あの男を信じてしまった ことなのか あのギターの 音を聞いてしまったことなのか それとも 夢を見てしまったことなのか

仕事は、電話をかけることだった。用意された、台本を読んでさえすればよかった。何十軒電話しただろうか、百軒超えていただろうか。台本の内容なんて気にしていなかった。ガチャ切りされるのが常だったが、話を聞いてくれる時もあった。
優しそうな声だった。

部屋に閉じ込められ、スマホも免許証も保険証も取り上げられ、朝起こされ、昼食を取らされ、夕食を取らされ、寝るまで、ひたすらに、ひたすらに、電話をかけていた。
あの日、までは。


本日県内◯◯市の▲▲マンションで特殊流動型犯罪グループ、いわゆるトクリュウの拠点とみられるマンションが警察に摘発されました。室内では掛け子とみられる男女10人ほどがおり………

10/3/2025, 10:25:48 AM