「愛を叫ぶ」
両手から溢れそうなほどの大量の花束。赤、黄色、オレンジ、とても綺麗でたくさんの色が入った花束を抱えながら走っている男は汗をかいていた。
はたから見ればそれは、彼女にサプライズとして渡すかのように見えただろうがそれは違った。
この綺麗な花達は謝罪の意味を持った花束だった。花も、まさか謝罪に使われるとは思いもしなかっただろう。
だが、男はそれどころではない。何故ならば、待ち合わせに5時間というとんでもない遅刻をしていたからだ。
男にもそれなりの理由はあったのだが、悪いのは確実に己だと理解していた。
「…」
待ち合わせの場所に着いたとき、彼は寒空の下で待っていた。こちらを睨みつけながら。彼の手には手袋がされてあった。それは私が前にプレゼントした物だったので、少しだけ嬉しくなったが、被りを振って忘れた。
「すみません、遅れてしまって。待たせてしまってすみません。ですが、貴方との約束を忘れていたわけではないのです。」
彼はこちらをじっと見つめている。痛い。とても痛い。いっそ殺してくれたほうがマシだろう。
すっ、と彼の視線は私が持っていた花束に移った。これは好機だと思い、すかさず彼にこう言った。
「私のせめてもの償いです。貴方に嫌われたくはないから。これは私の気持ちでもあります。なにしろこの花達の花言葉やら本数やらを聞いていたら5時間も経っていましたが…」
「だから、どうか受け取ってほしい。」
「 。」
彼は面食らったように私を見た。その目には先ほどの鋭さはなかった。
怒られる代わりに、こんな公の場でそんなことを堂々と大きい声で言うな、と顔を真っ赤にした彼に言われてしまった。
5/11/2024, 3:07:31 PM