沙和良

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「そうだ、それでいい」
 上から目線で言われた言葉にカチンと来るものの、相手が直属の上司ゆえ怒りを表に出すことは許されなかった。
「……ありがとうございました」
 不承不承と言った感情を滲ませてしまったが、なんとか礼を絞り出した。
「もう戻っていいぞ」
 こちらを見もせずに上司はそう言った。
 自席に戻ると無意識にため息が出てしまった。
「大変そうだったな。何度もやり直ししてて」
「本当に。……内容は同じなのになんで何度も書き直さなきゃいけないんだよ」
 伝えたい事は何も変わっていないのに、細かい文面を何度も直された。一体何が違うんだっていうだよ、と不満を胸に次の仕事に着手し始めた。

 そんな新人時代から数年、教育担当の新人の報告書を見て眉を寄せた。
「うわぁ、読みにくい……」
 まあ新人だしこんなもんか、と苦笑する。
 生まれた時から触れていた言語だというのに、思った通りに使えてないの自覚するにはまだまだかかる。
 あれから何度も伝え方の大切さを上司に教わった。彼はもうすぐ取締役に昇進するそうだ。
 新人の時は理不尽極まりないと思っていたのに、指摘の意図を実感すればどれほど親切な指摘だったとひしひし思う。
 大人になれば叱る人はいなくなる。だからきっと最後に叱ってくれる砦が上司なのかと拉致もないことを思った。
「さて、俺も新人に指摘しまくらなきゃな」
 そうしてツッコミどころを見つけては逐一リストアップしていった。

4/5/2024, 5:24:41 AM