薄墨

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ああ、バレないだろうか。
僕は内心、ヒヤヒヤしながら、部屋を出る。
入れ違いでリビングに入ってきたのは、僕の弟だ。

何でもない時って、僕は一体、どんな動きをしていただろうか。
何でもないフリ、何でもないフリ、と、心の中で何度も自分に言い聞かせながら、廊下を歩く。

やらかしてしまったのは、昨日の晩。
弟が眠った後のことだ。
いつもは、僕も弟も、だいたい同じ時間に夕飯を食べて、同じ時間くらいに眠る。
歳はそんなに離れてないから、日中は別々でも、夕方帰ってきてからの生活スタイルはよく似ているのだ。

しかし昨日は、別々だった。
昨日は、恋人との予定があって、僕の帰りは遅かったのだ。
恋人の機嫌を損ねてしまい、僕がやっと家に帰った時、リビングの時計は0時30分を指していた。

僕たちは、23時30分くらいにいつも眠るから、弟はとっくに寝てしまっていた。

まずは荷物を片して、その時、小腹が空いていたので、とりあえず何か軽く食べて、今日は寝よう。そう思って冷蔵庫を開けた。

今思えば、それが悪かったのかもしれない。

自分の部屋に向かう。
バレるのは時間の問題のような気がしてきた。
ドアを音が鳴らないようにそっと閉める。

昨日の夜、冷蔵庫にはプリンがあった
弟が買ってきたものだろう。
美味しいケーキ屋さんのプリンが、大きなケーキ屋さんの箱に入れられて、冷蔵庫に鎮座していた。

僕は昨日、それを取り出して、それから…。

リビングから大声が聞こえてきた。
弟の声だ。
僕は覚悟を決める。

弟はきっと冷蔵庫を開けたのだ。
そして気づいた。
プリンがないこと。
そして、プリンのあったはずのところに、人がバラバラになって詰め込まれていることに。

僕は過ちを犯した。
昨日、恋人を殺したのだ。
バレないように何でもないフリをしていたのだが。
やはり同居している弟にバレないようには、無理な話だったか。
弟はまもなく僕を探しにくるだろう。

僕はドアの後ろにそっと回る。
手の中にナイフを握りしめて。
何でもないフリをして。

12/11/2024, 11:11:06 PM