12/11 お題『何でもないフリ』
主様が大事な話があるというので執事たちは全員食堂に集められた。
みんな何事かとざわめいていたけれど、主様がやってきて静寂が訪れた。
主様は全員を見渡すと、めずらしく緊張しているのか、ピンクの小花柄の白いスカートを両手で握りしめた。
「あのね、」
口を開いたけれど、はくはくと開いたり閉じたりするだけで言葉にならないようだ。
その様子を見て、俺は例の青年とのことだな、と勘づいてしまった。
おそらくここにいる執事たちもあらかた気づいているのかもしれない。そのくらいふたりの関係はオープンで、彼も何度か屋敷にパイを持って遊びにきていた。
「えっとね、」
主様の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
うーん、どうしよう……。
するとルカスさんが一歩前に出た。
「主様、具合が悪そうなのでお話はまた次の機会にしませんか?」
そう言うと、さっと主様を横抱きにした。
「ベリアン、カモミールティーを淹れてくれるかな? アモンくんも今が一番見頃な花を採ってきて」
テキパキと指示を出したルカスさんは、腕の中の主様に向かって微笑みかけた。
何でもないフリをできるルカスさんはやはり大人なんだ……それに比べて俺は何もできていないな……。
運ばれていく主様を見送って、ルカスさんと俺とを比べて、また凹んでしまうのだった。
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12/10 お題『仲間』
画廊で手を繋いでいたふたりを見てしまったことを、俺は独りで静かに寂しく思っていた。
主様から想いを寄せられて俺は満更でもなかったのかもしれないし、そんなすぐにすぐは恋人と出会って紹介されるとも思ってなかったのかもしれない。しかしいざその場面に直面してみると、思いのほかダメージを受けている。
それでも、これでよかったのだと思う。
俺の想い人は後にも先にも、前の主様ただひとりなのだから。
2階の執事室の小さな椅子に身体を押し込んで膝を抱えていたけれど、『これでよかった』と思ったら少しは心も軽くなった気がする。立ち上がって身体をうーん! と伸ばしたところでドアがノックされた。
ドアの隙間から見えてきたのはベリアンさんとラムリ、フルーレの3人。
「どう……したのですか?」
新鮮な組み合わせに驚いているとラムリが身を乗り出してきた。
「眼鏡くんを元気づけに来たんだよ!」
「あ! ちょっと、ラムリさん!?」
フルーレが慌てているとその背後でベリアンさんが「あらあら」と苦笑っている。
「まぁ……概ねラムリくんの言っている通りなのですが。
もしよかったらお茶でもしませんか? ひとりでいるよりも、気持ちを誰かと共有することでスッキリできることもありますから」
ベリアンさんからの申し出に、
「実はついさっき割り切れたところなんです。あ、でもみんなとお茶は飲みたいです!」
俺はめずらしく素直に返事をした。
「それではみんなでティーパーティーをしましよう!」
「そうですね。ロノのスウィーツも、バスティンのケークサレも、他にもいろいろありますよ!」
それらは俺を励ますために用意されたものだと、さすがの俺も気がついた。
「ありがとう、みんな……」
「お礼はいいんですよ。私たちはみんな仲間、いや【家族】なのですから」
家族。その言葉に胸が温かくなるのを感じながら俺は引きこもっていた2階の執事室を後にした。
12/11/2024, 10:08:20 AM