ユズ

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何でもないフリ

「今日は大安です。一粒万倍日です。」
宝くじ売り場前で繰り返される呼び込みの声。

世の中の吉日が万人にとって吉日ではないようだ。当たり前か、吉日であろうとなかろうと事故や病気で亡くなる人もいるのだから。

慎重な性格といえば聞こえが良いが、面倒臭がりで臆病だからゆえに自分から知らない場所に足を運んだり、珍しいものを食べに出かけたりしない。

知りたいとなんて思わないみたいなフリをしているが、年齢を重ねてもまだこんなことすら知らないなんて恥ずかしいという気持ちもある。

無欲で慎ましいとは程遠く、内面には人間らしい欲望もあるし、嫉妬や妬みもある。何でもないフリをしているだけなのだ。

子供の頃から感情や欲望が周りに伝わらないように、寂しく辛くても、笑顔を作り、嬉しくて飛び跳ねたい時には冷静を装った。

自分自身の素の感情に嘘をつき続けることで、自分を愛せなくなった。ズルくて、したたかな感じがして、なぜ素直になれないんだろうかと苦しんだ。

音楽を通して、素直な自分を表に出すことへの恐怖や不安が小さくなった。私が出会った楽器は、二胡という弦楽器だ。“ド”の鍵盤を押さえれば、必ず“ド”が出るピアノとは違い、緊張、苛立ち、心地よさ、自信の有無といった内面の状態が、指に入る力の度合いや姿勢の崩れなどにより、全てが音に表れる。

最初は恥ずかしくて、怖かった。緊張してどんなに乱れた演奏をしても、周りの人は何でもないフリをしてくれた。どんな状態であっても、自分のことを否定しないで、ただ見守ってくれたことが嬉しかった。

何でもないフリは無関心だけじゃない。相手を傷つけないための優しさでもある。

12/12/2022, 5:55:56 AM