別れの挨拶をしなかったな。
さよならも、またね、も言わなかった。
ただ、ふりむかないで、と手を離しただけだ。
なんだかそれがとても自然で、当然のことで、そう言えばと思い出さなければずっと意識もしなかっただろうと思えた。
近いうちに再会できると確信してるから?
そもそも出会ったことすら夢のようなことだから?
多分どれも正しくて、どれも違っている。
わたしを覚えている者の中に、わたしはいる。それ以外の場所にわたしはいない。
本当に別れのときは、思い出がなくなったときだろう。
そのときが来たら、悲しい出来事をひとまとめにしておいてほしい。
そっと一緒に連れていくから。
『さよならを言う前に』
8/20/2024, 11:51:52 PM