押し入れの奥から、古いノートが出てきた。
表紙にはいつもの自分より丁寧な字で、「将来は小説家になる」と書いてある。
苦笑いしながらページを開くと、青いインクでびっしりと物語の断片が並んでいた。
世界を救う少女。
雨の中で再会する恋人。
どれも拙いけれど、まっすぐだった。
文字に命が宿っている。
あの頃の僕は、本気で信じていた。言葉で生きていけると。
今の僕は、会社のデスクで報告書を書いている。
締切はあるけれど、物語はない。
帰宅しても、キーボードを開くことは減った。
ノートの余白に、小さくこう書いてある。
「絶対に諦めない」
思わず笑ってしまった。
「君は今、僕に失望しているかな」
物語への想いだけは、ずっと変わらない。
でも、目の前の白い画面は、何時間たっても白いままだった。
あの頃の僕は、まぶしすぎた。今の僕は、その影だ。
『君は今』
2/26/2026, 3:13:36 PM