ざざなみ

Open App

『手放す勇気』

私は明日、この家から引っ越すことになった。
ここは、私たち家族にとって辛いことを思い出させるからと家族みんなで話し合って決めたことだ。
数ヶ月前、飼っていた猫が死んだ。名前は凪と名付けていた。とても人懐っこくて家族みんなで可愛がっていた。けれど、もう寿命だったんだと思う。
ある日を境に、凪が急に歩かなくなった。両親は最初、ただ寛いでいたいだけだろうと言っていたけれど、たぶんあの頃から少しずつ体を動かすことが困難になっていたんだと思う。
日に日に衰弱していく凪を見て、私は見るのが辛くなって凪を構うことも少なくなって言った。
でも、凪はそんな私の気持ちを分かっていたのか私が構わなくてもずっとそばにいた。
たぶん、私が悲しいと思っていることを分かってそばにいてくれたんだと思う。
私もいつか、歩くのが遅くなっても、動けなくなっても私が手を差し出すと頬を擦り寄せて来る凪が可愛くて残り短い寿命を少しでもいい思い出にしてあげようと思うようになっていた。
その数週間後に凪は静かに息を引き取った。
その後はちゃんと弔って凪に凄く感謝した。
しばらく、凪のいない生活をしていたけれど、両親がこの家にずっと居るのはつらくないかと私に言ってきた。
いくら飼い猫と言えども亡くなってすぐに忘れて前を向いて生きていけるはずがない。
私はまだ、心のどこかで凪の死を悲しんでいたのだと思う。
もう私も前を向かないといけない時が来たのかもしれない。
今日、私はこの地を手放す勇気を胸に新たな地へ行くことになる。
凪の思い出をずっと忘れずに生きていくために。私が前を向いて生きていくためにも。

5/16/2025, 10:52:53 AM