ひらり
風が優しく吹く日、私は川沿いの道を歩いていた。春の光が木々の間から差し込むと、葉っぱがひらひらと揺れる。その瞬間、目の前を一匹の蝶が舞っていった。白い羽が太陽の光を受けてキラキラと輝いて、まるで空を切り裂くように軽やかに飛んでいった。
蝶を見つめていると、突然心の中に温かい感情が湧き上がった。それは、今まで忘れていたような、あの頃の懐かしい記憶。どこか遠い場所で感じた、安心感と平穏。思い出の中の誰かが、そっと私を見守っているような気がした。
「ひらり。」その言葉が口から漏れた。
私は立ち止まり、風に耳を澄ませた。空気が柔らかく、世界がひとつの大きな優しさで包み込まれているような気がした。蝶はやがて木々の間に消え、私もまた歩き出した。その足取りは少し軽くなったように感じた。
たったひとひらの蝶が、私の心を少しだけ変えてくれた。
3/3/2025, 10:35:49 AM