白井墓守

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『新年』

新年。
新しい年が明ける、というのは一体どんな気持ちなのだろうか。
……ロボットのワタシには、それが分からなかった。

「ワタシには、分かりかねます。博士」
「まあまあ、そうつれないことを言うんじゃあ無いよ。あたしみたいな年寄りにはねぇ、来年の正月なんて来ないかもしれないんだ。ほら、せっかくあんたの事を餅を食べても喉を詰まらせないイケメンに作ったんだ、正月を楽しみなよぉ!」
「…………博士の命令なら」
「堅いねぇ」
「ワタシはロボットですから」

目の前に置かれた“お雑煮”とやらを口に運ぶ。
博士から与えられた口内味覚センサーは、ほどよい熱と滑らかに弾力を与えるモチという物体、出汁の効いた液体が良いバランスでアンサンブルを奏でている、と計測結果が出ている。

「はぁ……やっぱ、お正月はコレだねぇ。内蔵に染み渡るようじゃあ、ないか」
「博士。内蔵に染み渡ったら、危険では?」
「ばかだねぇ。比喩表現に決まっているじゃないか。けっけっけ!」

ワタシの博士は90歳を越える老婆だ。
博士は、曲がった腰を上下に動かしながら笑う。正直に言って、これと似たようなホラーグッズを見たことがある。
他の人間が今の博士を見たら、衝撃のあまり恐怖で下着を濡らすことだろう。

「はぁ。満足満足」
「それは良かったです」
「あたしも、あと何回、新年を楽しめるかねぇ」
「前に図った健康データでは健康そのものでした。あと、10年は問題ないのでは?」
「ばかだねぇ。データはデータさね。過信するんじゃあ、ないよぅ……何事にも、艱難がある。ぽっくり逝くときは、逝くさね」
「……」

遠くを見つめるような博士の言葉に、なんとなく体内計測機器がエラーを起こす。
疑似感情システムが、胸が締め付けられるようだ。と表している。

「博士、あなたが死んだあと、ワタシはどうすれば良いのですか」
「好きにしなよぉ」

楽観的にケラケラ笑う博士。
ワタシは顔パーツの眉を寄せて、不快を露にさせた。

「……ワタシはロボット。道具です」
「ロボットだろうが、アンタはアンタだ。道具なんかじゃないよ」
「……わかりません」
「いつか、分かる日が来るさね。なんたって天才博士のアタシが作ったんだ。道具じゃなくて、家族をねぇ」

博士に家族は居ない。
ずっと研究に打ち込んでいて、結婚もしまいまま、子供を居ない独り身らしい。
弟子や養子を取ることも考えたが、結局は色々あって流れたらしい。
そんな博士の最後の願い、最後の研究成果がワタシだ。
一人で死ぬのは寂しい。誰かに看取られたい。死ぬまで一緒に居てくれる“家族”が欲しい。

……ワタシは、果たして“あなた”の思うような、家族になれているのでしょうか。

また、来年。
それまでに、……少しでいい。
あなたの家族だと、胸を張れるようになりたい。

ワタシはそう思いながら、お雑煮を口に運んだ。


おわり



1/1/2026, 9:40:17 PM