【手紙の行方】
飼い主の元気がない。
理由はたぶんあの男。少し前まではうちに遊びにきていて、僕に鬱陶しいほど構ってきた男。
最近は全然遊びに来ない。
最後に遊びに来た時だった。飼い主が珍しく声を荒げて男に詰め寄っていた。
「なんでもっと早く言ってくれないの」とか「遠距離は無理」とか、僕にはよくわからないことばかり言っていたけれど、あの男が飼い主を怒らせて、悲しませたのは間違いない。
飼い主があの男を嫌いになったのなら僕も嫌いだ。
だからあんな奴忘れて僕と遊ぼう?
そう言って飼い主に擦り寄るけれど、返ってくるのは優しく撫でる手だけ。視線はいつも遠くを見てる。
あの男が来なくなってから少し経って、一通の手紙が届いた。
その封筒からはかすかにあの男の匂いがする。
飼い主をいつまでも苦しめるあの男が憎らしくて、僕は思わずその封筒に齧りつく。
中身ごと、ビリリと破いて吐き捨てる。
ビリッ、ペッ。ビリッ、ペッ。
何回かくりかえしているうちに、あの男からの手紙は細かい紙切れとなった。
「な、なにしてんの!?」
少し目を離した隙に原型を失った手紙と僕を交互に見つめて飼い主が驚いて声を上げる。
飼い主宛ての手紙を破いてしまったことに怒っているのかと身構えたものの、僕の予想は違って飼い主は心配そうに僕の顔を覗き込む。
「紙、食べてない? おなか壊してない? ストレス溜まってたのかなあ……」
飼い主はあの男からの手紙よりも僕の体を心配してる。
あの男よりも僕を選んだような気がして気分が良い。
「なぁん」
大丈夫だよ。僕は飼い主の傍にずっといるよ。
そう伝えたくて飼い主の指をペロペロと舐めると彼女は、くすぐったそうに笑った。
2/18/2025, 11:23:53 AM