あの雲の塊を見る度、
僕はあの日のことを思い出す。
あの日、僕と君は
あのイカれた家から逃げ出すように
持ってるお金全てと携帯だけを持って
県外に行こうとしていた。
君とはあまり関わったことは無かったが、
君がイカれた家にいることを知った僕は、
ほっとけなかった。
一日一緒にいて仲良くなった君と
入道雲を見ながら
色々話した。
君は海を見てみたいと、
青く広がるあの地平線の向こうに行きたいと
言った。
だけど、あいにく入道雲がこちらに来ていて、
すぐにここを離れないと雷雨に当たりそう
だからと、あまり海を見れなかった。
結局駅まで遠く雨に打たれながら、
笑いあった。
そして、電車に揺られながら、
“また、2人で海を見に行こう”と
約束をした。
だけど、あとひと駅で県外、
もうすぐ日をまたごうとしていた時に
警察に補導された。
逃げようとした僕とは裏腹に
君は『僕たち家出してきました』と
警察に笑顔を向けた。
久々に学校に行くと、
腕には包帯、あちこちに痣や傷がある
君がいた。
僕は声をかけようとしたが、
君は何も言うなと言わんばかりに
ニコッとした。
僕は何も言えず、なにも出来ず、
モヤモヤだけが残った状態で
学校を卒業をした。
今君はどうしているのだろうか、
無責任に手を貸してしまった僕を
恨んではいないだろうか、
あの時、君は何を思っていたのだろうか、
君もこの空をどこかで見ているのだろうか、
あの海の向こう側へ行けただろうか…。
思うことは沢山あるけど、
全て謎に包まれたまま。
また、君に会いたいな。
【入道雲】
#65
6/29/2023, 1:59:54 PM