ざあざあ雨だ。そんな事を考えながら、折り畳み傘をゆったりと取り出す。髪が湿気で纏わりつき、それが苛つきを増幅させていた。雨は嫌いだ。かと言って、晴れが好きな訳でもない。涼しい時の晴れはすきだけれど、暑い晴れは嫌いである。
休日のバス停にて。
「 …はあ、 」
溜息が漏れる。それにしても、この雨は想定していなかった。雨が降る事は知っていたものの、ここまで降るとは……と言った感じだ。背後から気配がして、反射的に振り返る。そこには見知った、世界で一番絶対に会いたくない顔があった。
「あ」
「…あ、」
ひとつ遅れて相手があ、と返す。気まずい気まずい気まずい気まずい気まずい。
「あ、カサキ、…久しぶり?」
「…ひさしぶりだね、小学生以来かな」
「あの、かさき、」
「今日天気悪いよね、傘持ってるの?」
「う、うん、それよりさ、」
「あぁ、雨って嫌だよね」
あの事は絶対に思い出したくない。
「雨ってさ────」
「天気の話なんてどうだっていいんだ !!僕が話したいことは、っ」
「…もういいよ」
ゆるしてあげる、許してあげるから。
「もう、何も言わないでいいよ」
バスが来た。そのまま「さよなら」とだけ告げて、そいつとはもうおさらばだ。バスに乗り、雨により濡れている窓枠から見たそいつの顔は歪んでいた。
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御久しぶりの刺咲 絞憂です。
テーマが長くてビビりましたねぇ。
5/31/2023, 10:30:47 AM