【ないものねだり】
成績優秀、品行方正。誰しもが認める優等生。いつも比較されてばかりの俺からすると、クソムカついて仕方がない双子の兄が、俺の眼前で珍しくも頭を抱えていた。
「いや、無理だって。本当に俺、こういうセンスないんだから」
「自覚あるなら断れば良かっただろ」
学園祭のポスター案らしきものが、リビングの床にいくつも並べられている。どれが良いか選んでほしいだなんて実行委員の連中に頼まれて、ほいほいと受けるからこうなるんだ。こいつ本当に色が見えてるのかって疑うレベルで、色彩センスだけは昔から壊滅的なくせに。
ちらりと、そいつの視線が部屋の片隅に置かれたガラス棚へと流れた。そこに並んだいくつもの賞状へと、恨みがましい視線を注ぐ。
「お前の芸術センスが羨ましいよ」
「ふざけんな、嫌味か」
確かに美術の成績だけはこいつに勝ってるし、描いた絵がコンクールで賞をもらうことも多いけど。お前のせいで、俺がどれだけ針のむしろに座らされてると思ってるんだ。「双子のお兄さんは優秀なのにねぇ」なんて、成績表を前に担任に呆れられた俺の気持ちも少しは考えやがれ、こんちくしょう。
「もうお前が選んでよ。得意だろ、こういうの」
「美術部の会計処理、代わりにやってくれんなら考える」
学園祭に向けて画材を買い込んだは良いが、会計ノートに書くのを後回しにしてしまったレシートが山ほど溜まっていた。こいつなら全く手間じゃないんだろうにと思うと、無性に腹立たしい。
「やる。今日中に全部片付けてやるから、代わりにこっちお願い」
即答だった。俺がこんなにも面倒に感じる作業は、こいつにとっては二つ返事で引き受けられる程度のものなのだろう。ああくそ、苛立たしくて仕方がない。
はあ、と吐き出した溜息が二人分、綺麗に重なった。
3/26/2023, 12:03:07 PM