汀月透子

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〈冬晴れ〉

 正月も三が日が終わり、ようやく日常が戻ってきた。
 けれど、疲れがどっと出る。何をする気も起きない。ソファに座ったまま、ぼんやりと窓の外を眺める。

 それにしても、いい天気だ。

 空は抜けるように青く、陽射しが部屋の中まで明るく差し込んでいる。こんな日に何もしないのはもったいない。
 せめて洗濯だけは済ませようと、重い腰を上げた。

 洗濯機を回しながら、ふと呟く。

「正月って、主婦は絶対休めないよね……」

 今年は休みが長かったとはいえ、年末の大掃除と、おせちや料理の仕込み。正月も料理の補充やなにやらで、全く家事をしない日なんてなかった。
 夫の両親が同居していたころに比べたらずっと楽にはなったけど、それでも気が休まらない。

 三が日が過ぎて、社会人と学生の子供二人はそれぞれ生活しているところに帰った。
 昨日まで賑やかだった家が、急に静かになる。買い物に出る気にもならず、夫はひとりで出かけた。

 ひとりきり。せいせいする。

 洗濯物を抱えて庭に出ると、きりっとした冷たい空気が頬を撫でた。いい天気で、外に出ても寒くはない。むしろこの空気が心地よい。
 一枚、また一枚と洗濯物を干しながら、ふと空を見上げる。真っ青な空に千切れ雲がひとつ、ゆっくりと流れて行く。

 洗濯を終えて、リビングに戻る。ソファにもたれて、また空を見上げた。窓越しの陽射しがいい感じに当たって、じんわりと温かい。気持ちがいい。

 スマートフォンを手に取ると、友人からメッセージが届いていた。

「正月疲れた〜。もう動けない」

 どこの家も同じなのだ。私も返信する。

「わかる。へとへと」

 しばらくやりとりが続いて、友人から提案が来た。

「2月ぐらいに温泉行かない?」

 いいわね、と思わず頷く。そうよね、上げ膳据え膳じゃないと休んだ気にならないわ……。
 返信を打ちながら、温泉宿でのんびりする自分を想像する。何もしなくていい時間。誰の世話もしなくていい時間。

「行く行く!」

 返信を送って、またソファに身を沈める。
 陽射しが気持ちいい。窓の外では、木々の枝が風に揺れている。冬の透明な光の中で、すべてが静かだった。

──気づけば、眠りこんでしまっていた。

 夫が帰ってきた気配で目を覚ます。
 はっとして窓の外を見ると、日が傾き始めていた。あわてて庭に飛び出し、洗濯物を取り込む。冷たくなった洗濯物を抱えながら、慌ただしく家の中に戻った。

「ああ、もう。こんな時間まで寝ちゃって……」

 洗濯物を畳みながら、夕飯の支度を考える。冷蔵庫の中身は……と頭の中で食材を確認し始めたとき、夫が声をかけてきた。

「夕飯、外で食べるか」

 珍しい。夫がそんなことを言うなんて。
 疲れてると思ったのか、気を遣ってくれたのか。理由はわからないけれど、ありがたい。

「……そうね。今日は甘えましょうか」

 洗濯物を畳み終えて、少しだけ化粧を直す。鏡の中の自分は、やっぱり疲れた顔をしている。
 でも、今日一日、いい冬晴れだった。

 そう思えるだけで、少し気持ちが軽くなった。

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お正月休み、あと一週間は欲しいですねぇ……
大体、1年の疲れがそう簡単に抜ける訳はないのですよ(真顔

1/6/2026, 5:26:03 AM