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〈物憂いげな空〉


学校の帰り道、僕は教室に忘れ物をしてしまい、取りに戻った。
扉を開けると、そこにはいつも無口でクールなことで有名な雨ヶ谷さんがいた。
気づかれそうになって、なぜか僕は廊下の扉の陰に隠れてしまう。

もう下校時間なのに、どうしてまだ教室にいるんだろう。

そう思いながらそっと覗くと、彼女は窓の外を見つめていた。窓の向こうには、どこか重たげな灰色の空。

雨粒が一つ、また一つとガラスを伝っていく。

雨ヶ谷さんは、物憂げな表情でその空を眺めていた。
何かあったのだろうかと、思わず心配になる。
はっとして、自分の目的を思い出す。

そうだ、折りたたみ傘を取りに来たんだった。

廊下の時計を見て、僕は慌てて教室へ入る。
物音に気づいたのか、雨ヶ谷さんが振り向いた。
「まだ誰かいたんだ。どうしたの?」
少し驚いた顔で、そう聞かれる。
「傘を忘れて……取りに来ただけ」
そう答えると、彼女は小さく笑った。
「そっか。私ひとりだったから、ちょっと気まずかったよね。ごめんね」
ロッカーから傘を取り出しながら、僕は迷う。
聞いてもいいのだろうか、と。

それでも気になってしまい、思いきって口を開いた。
「雨ヶ谷さんは、帰らないの?」
「あぁ……うん。帰りたいんだけど、傘忘れちゃってさ」
そう言って、彼女は少しだけ目を逸らした。

少し迷ってから、僕は自分の傘を差し出す。
「それなら、この傘あげるよ。返さなくていいから」
「え、いいの?……ありがとう。君、優しいね」
そう言って微笑む彼女の横顔は、やっぱりどこか物憂げだった。

下駄箱で別れ、彼女は雨の中へ歩き出す。
灰色の空の下、その背中は小さく見えた。
僕はそのまま、雨に濡れながら走って帰る。

あのときの僕は、
きっともう二度と、彼女と関わることはないのだろうと、
そう思っていた__。

2/25/2026, 10:30:17 AM