君に会いたくて
春の暖かな風が君への想いを昂らせる。
今日は年に1度の平日だけど特別な日。
念入りに準備してきた甘いお菓子を白い線の入った包み箱に入れフリルのリボンで蓋をする。
階段を上がると柔らかな夕日が差し込む教室に辿り着く。そこには同じ制服姿の君が扉の向こう側に居る。
心臓の音が君に聞こえそうで足がすくむ。
一度呼吸と身だしなみを整え、扉に手をかける。
でも、その先の不安が私を呼び止める。
渡したら迷惑かな?可笑しいって思われたくないな。
緊張して話せなくなったらどうしよう。
友達に助けを求める為に電話をかけるが何故か繋がらない。こういう時に憎いという感情が湧くことを知りながら目の前の事実に向き合う。
「今日を逃したら後悔する。」
その先輩と出会ったのが、私が、元々編入する前に寂しさを紛らわす為に通っていた書道教室に居た優しくて話の面白い先生だったのだった。
私は、幼い頃から転勤が多い両親の間に育っていたのもあり転入や編入が当たり前になっていた。
友達付き合いも最初は引かれるほど泣いて両親を困らせてはいたが、今では浅い付き合いしか出来ないと学び、クラスメイトよりも外部の交流やSNS等々で出会う人達とのやり取りが日常茶飯事になっていた程だ。
正直書道は暇つぶしに始めた為に飽きたら辞めようと思いつつ気づけば5年ほど経っており、飽き性だった私が一学年しか変わらない先輩がいたお陰でここまでこれたのは正に奇跡と呼ぶには事足りると自負している。
だからこそ通い続けていくうちに尊敬が淡い恋ごろに気付くのに時間が掛かったのかもしれない。
今思えば私が学校の人間関係について悩んでいると相談した時にやたら事細かに事情を聞いてきていて、次の日には学校の生徒会長とやらが急遽全校集会を開きたいって校長に直談判したって噂は聞いたが、、
まさかね、、、。
箱を見つめ、もう一度強く願いを込める。
ここまで来て逃げたくはない。先輩が私にしてくれたことを今度は私が先輩にしてあげたい。
これを恋と呼ぶなら今はそれでもいい。
意をけして扉を開ける。
するとそこには夕日に差し込まれた教室があるだけ。
「えっ、、、、、?」
先輩は私にとって特別で、初めて自分から行動する勇気を与えてくれた大切な人だって思えた。
だから欲が出てしまった。
その罰が当たったんだと思う。
私は神様から恋愛に向いていないと言われた気がした。
驚きのあまりへたり込む。
「やっぱりこんな私じゃダメだよね、、、」
感情が溢れ出し、箱を握りしめる。
「もう、、、、、、いいや、、、」
教室に背を向け走り出す。
何もかも嫌になった、、、。
先輩に少しでも期待した自分が恥ずかしくて、悔しくて
惨めで、愚かで、情けなかった。
不意に誰かとぶつかる。
「いった、、、、、、、、、、、。」
「あっ、、、ごめんなさい。」
私は我に返り慌てて謝った。
「ん?その声どこかで」
と私が思う前に相手が口を開く。
「何処に行ってたんだよ、、ずっと待ってたんだからな、、」と困惑した表情で私を見る先輩の姿だった。
「え?いや、教室で待っててくださいって伝えたんですけど、、いなくて、、、、帰ったのかなって」
私はボソボソと呟くように伝えた。
すると先輩はますます困惑した表情で「いや、、教室って言ったから書道教室かと思うじゃん、、、今度何か俺にある時は具体的に頼むぜ」
と笑いながら話して私の手に持っている物に目線を落とす。
それはそうと「それ誰にあげるんだ?まさかこの前言ってた好きなやつになのか?」
先輩は爽やかな笑顔で聞いてきたが、残念ながら鈍感すぎて今この状況であげるのは私が嫌なのて軽く促すことにした。
「そうです。でもその好きな人は気付かずにいるので私が食べようと思ってます。」
そう言いながらそっぽを向いて帰ろうとすると不意に先輩の手に呼び止められる。
「えっ、、ちょ、、、、離してください。」
思ってもいない行動に驚きのあまり声が大きくなる。
不意な行動に動揺が隠しきれない私に先輩が続けて
畳み掛けてくる。「もし良かったらなんだけど、そのチョコ俺にくれないか?君が誰かを想って作っている物にとても興味があるんだ」と
この人は何を言い出すんだと私は眉をひそめる。
確かに先輩に作ったものでもある。
だが、私なりの渡し方があるし今のまま渡すとかえってややこしい事になることは明白だった。
「いや、、、です。」
私は言葉に詰まりながら必死に答えを探す。
その言葉を聞いた先輩はとたんに大人しくなりポケットから何やら白いラインの入った黒い箱を取り出す。
「本当は別日に君に渡そうと思ったんだけど、今のタイミングで聞きたくなった」
そういうと私に黒い箱を差し出し中身を確認するように促す。
まさかの行動に私は固まり、箱を受け取れずにいると痺れを切らした先輩が箱を開けるのを手伝うように手を添えてきた。
箱を開けるとそこにはマーブル型のクッキーと白い紙切れが入っていた。
そこに書かれていたのは、、、、、
私は目を大きく見開き、先輩を見る。
先輩もまた顔の火照りを隠す様にそっぽを向きつつ
「𝙷𝚊𝚙𝚙𝚢 𝚅𝚊𝚕𝚎𝚗𝚝𝚒𝚗𝚎」と呟く。
優しい風が淡い2人を包み込む。
未だ見ぬ明日に希望を馳せながら。
1/19/2026, 2:13:48 PM