《短編ポエム小説》
“病室”
ここでは真白な風が吹き抜ける
ドアを開けて全面がガラスになった
絶景の部屋の中に駆け回る数多の人の幻はあった
無機質で清潔な閑散とした無人の部屋に降り立つ
愛しくもあり懐かしくもあり微笑ましくもあり
いつでもあるようでいつまでも見つからなかった
何処にでもあるようで何処にも見つからなかった
あのときは笑っていた
あのときは悲しんでいた
あのときは安堵していた
横たわる人の姿が変わっても
駆け回る人の姿が変わっても
時代や場所が変わっても
誰かがそこで喜んでいた
誰かがそこで悩んでいた
誰かがそこで泣いていた
扉を開けると
ある人はありがとうと言った
閉じてまた開けると
ある人はお大事にと言った
閉じかけていると
ある人が頑張れと言った
閉じた向こう側から
ある人が頑張ったと言った
ノブから手を離すと向こう側から
ある人が頑張ると言った
みゆき
8/2/2023, 11:24:04 AM