夏の魔法使い

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『厳しい暑さ』

暑い。この夏は特に。ニュースなんかで地球温暖化が進んでるとは聞いているけど、こんなに進むのが速いなんて聞いてない。やばい、暑すぎる。どこか店に入ろう。
視界の端に映った喫茶店に吸い込まれる。コーヒーを頼み、スマホを触る。LI●Eニュースで全都道府県で40度超えを記録したという速報が入って来ていた。あぁ、ついに北海道も超えたか。!「ギャーッヤダヤダ読んで〜」泣き声が聞こえて咄嗟に後ろを振り向く。そこには、4歳くらいの女の子が絵本を持って駄々をこねている。どうやら、店が置いてる幼児の暇つぶし用の絵本を読んてもらいたいらしい。ハハッ懐かしいな。俺も絵本を読んでもらいたくてよく駄々をこねたもんだ。何を読むかって聞いたら、いつも「北風と太陽!」と言うものだから呆れちゃった、なんて母が話してた。幼少期を思い出していたら、ふと今の世界と子供の頃読み聞かせしてもらった絵本のことを重ね合わせる。絵本では、北風と太陽が旅人のコートを脱がせる勝負をする。そこで、北風は風を吹き付けるが、旅人はコートを押さえてしまって脱げない。一方太陽は優しく日光を浴びせた。すると旅人は、暑い暑いとコートを脱ぎ、水浴びを始める。このように力ずくや厳しい態度て人を動かそうとするより、暖かくて優しい言葉の方が人は動くという教訓がある。
しかし、今は、地球温暖化が僕らを恐怖に陥れている。日差しも強くて外にいるだけで肌が痛くなる。このままどんどん気温が高くなって、生身では外にでられなくなったりして。その頃にはもう、北風と太陽の教訓は伝わらないな。 フッ 我ながら変なことを考えたな。

…60年後
「おじいちゃーん 教えてー」
「なんだい?」
「この絵本ね、意味が全くわからないんだよ!」
「どれどれ  ……」
「太陽ってのは知ってるよ!学校で暑くて危険な星って習った。 でも、なんで太陽が出ている中、コートを脱いだの?死んじゃうよ?」
「……………………」地球温暖化が進み、暑くなりすぎて生身で外に出るどころか、地球にはもう住めなくなった。今は、特殊なスーツを着て、別の星に住んでいる。太陽なんか遠すぎて見えない。
「おじいちゃん?」
「あのね…昔人間はね…」
話せば話すほど昔の記憶がフラッシュバックする。太陽が恋しくなる。
明日、もし晴れたなら、この特殊スーツを脱ぎたい。“晴れ”という概念がないこの星で、変なことを考えたもんだ。

8/1/2024, 12:59:54 PM