最初から決まっていた
恋をしてしまった。こうなることは、誰も予想しなかっただろう。俺でさえも。
恋を「してしまった」。そう、恋してはいけないものに恋心を抱いてしまったのだ。おかしいと思われるかもしれない。自分でもそう思う。俺は、小説の登場人物に心を奪われてしまった。
不思議なキャラクター性をもち、主人公を惑わせる、男子中学生。男子にしては長い黒髪を束ねる、そのときの小説の描写にときめいた。恋に落ちたんだ。
彼には、小説の中でしか会えない。俺に語りかけることもない。何度読んでも、彼は同じ運命をたどる。それでも、恋をし続ける俺はまぬけなのかもしれない。彼に会うためだけに、今日も読書に没頭する。
彼は、同じ運命をたどる。彼は死んでしまう。小説は、そういうエンディングを迎えるからだ。何度か読んでも、彼は死んでしまうんだ。
小説を読む前から決まっていた。恋をする前から決まっていた。最初から、彼は死ぬんだって。
8/8/2023, 10:12:15 AM