月凪あゆむ

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1つだけ


「あの世へ逝く前に、1つだけ願いを叶えて差し上げましょう」
 そう言い、黒い髪の、白い翼を持つ彼は、笑った。
 この部屋にしか居場所のない、友もいない私は、願った。
「──なら、私と遊んで?」
「……は?」
 彼は心底驚いたような顔をした、気がする。まあ、そうだろう。
「だって私、足がないでしょう? だから、この部屋からほとんど出たことがないの。誰かと遊んだことも、記憶にないんだもの」
「…………」
 たぶん、こういうのを「絶句している」と表現するのだろう、たぶん。分からないけど。
 ……ところで、このひとは誰だろう?

 とても長い間のあと、彼は言った。
「それは、僕にも分からないんだ」
「え?」
「僕は天使と悪魔の間の子、つまり禁忌の子だ。だから、誰かと遊んだこともない」
 天使と悪魔。禁忌。
イマイチよく分からないけど。このひとは、自分と似ている、ということ?
 だったら。

「あなたの名前、おしえて?」
「は?」
「こんなに長く、誰かと話したのはずいぶん久しぶりなの。だからもう、私は満足してるから。あなたの名前は、『あの世』でも忘れないから」
 本心を言い、心からの笑みを浮かべた。なのに。
「…………」
 あ、また絶句された?

「……僕は」
 また、長い間のあとに、彼は言った。
「名乗るべき名前は、僕には与えられていない」
 なら。
「だったら、一緒につくりましょう。あなたの名前を。──これが、私の願い」
 そう言うと、彼はなんだか変な笑い方をした。こう、顔をクシャっと歪めて。

「どうして、そんなに優しいの」

 だって、こんなにたくさんの顔を見せてくれたのはあなたが初めてだから。
 悲しい顔より、笑った顔を見てから、サヨナラしたいじゃない。


 そうして、創った彼の名を抱えて、私は眠りについた。
 不思議なふしぎな、彼の名は──。

4/3/2023, 11:06:37 PM