――今までに見たことないほど、空は乾いていた。
雲だって、そう多くはなく、むしろ、青く染まった空を見せびらかすようだ。
昨日まで空全体を雲が隙間なく覆っていた事が嘘かのように。
しかし、地面にはしっかりと水たまりが残っていて、それが恨むように、空を写していた。
人々は慌ただしく、歩道を埋め尽くしている。
一つの隙間だって許さないかのように。
車は騒がしく道路を走り、そこいら中のビルなんかも活気づいている。
小鳥はさえずり、木は優しく葉を揺らしていた。――
=私は誰を主人公にしたら良いのだろう。
くたびれたサラリーマン。
学生に、無職に、フリーター。
誰かのオタクに、何かの俳優。
国民的アイドル。
はたまた、卵から孵った雛鳥か。
雨と言ったら、カエル、ミミズ、カタツムリ?
いっそ、車なんかの人工物でも良いかもしれない。
思い切って雨を主役にしてみても。
台風が過ぎ去った時の話……。
駄目だ難しい!=
――そう頭を抱える一人の作家。
彼は冴えない中年男性。
一応作家と名乗っているが、実のところ無職と変わらない。
久々の仕事に始めこそ喜んだものの、紙をまえにすると、どうも筆が進まないらしかった。――
=台風と言えば、この間、洗濯物を取り込み忘れてビチョビチョにしてしまったことくらいだ。
個々の立場になって考えるのは面倒くさいし、やっぱり雨にしようか。
空や雲でもいいが、ともかく人は無しだな。=
――彼は立ち上がり、大きめのサンダルを履いた。
かなり薄手な格好だったが、気に留める様子はない。
玄関の扉を開けると、外の新鮮な空気と同時に、寒風が彼の体を震わせた。
瞬間、彼の中でなにか浮かんだようだった。
思いっきり玄関の扉を閉めたかと思えば、慎重にサンダルを脱ぎ、いそいそと、机に向かう。
空は一層、青さを増していた。――
台風が過ぎ去って
9/13/2025, 10:26:56 AM