霜月 朔(創作)

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ただいま、夏。



残酷な世の中で、
人に裏切られ、傷付けられ、
与えられず、奪い取られ、
逃げるように、
夜の闇の中で生きてきて。

明るい場所は苦手だった。
隠してるボクの傷跡を、
白日の下に晒すから。

作った笑顔で、
傷だらけの心を隠して。
長袖の服で、
傷だらけの身体を隠して。
その他大勢になろうと、
自分の気持ちを押し殺す。

生きるだけで精一杯の、
忙し過ぎる日々の中で。
心も、身体もすり減らし、
休む余裕さえない、
そんな日々。

夏の傍若無人な太陽は、
酷く早起きで、
ボクの大切な夜の時間さえ、
奪い取っていく。

小鳥さえ寝ぼけ眼の時刻から、
青を纏うようになった空に、
悲しい程、真っ白な、
大きな綿菓子のような、
可愛らしい雲が浮かぶ。

早朝。多くの人間は、
まだ夢の中の住人で、
嫌われ者のボクも、
今だけは、
息を潜めずにいられる。

空を仰ぎ、
大きく深呼吸する。
鮮やか過ぎる青と白に向けて、
騒ぎ出した蝉と一緒に、
挨拶をする。

ただいま、夏。

8/4/2025, 10:24:07 PM