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『ひとひら』

そう聞いて何を思い浮かべるだろう。
大半の人は桜の花びらが宙に舞う様を連想するんじゃなかろうか。
逆に他に何があるのだろう。足りない頭を使って考えてみるものの、しゃぶしゃぶの肉を『ひとひら』ヒョイっと掬って口に運ぶ。うーん、美味しい、くらいしか思い浮かばない。そんなので一つのテーマを書き上げられるはずもない。
なので、本日のテーマは休みの日に家に閉じこもってソーシャルゲームや動画投稿サイトの視聴に没頭してないでたまには外へ桜の見物にでも出かけてみたらどうだ?と遠回しに告げられているように感じた。
なにはともあれ、そう決めたら行動は早かった。

着替えて帽子を被り外出する。
外は快晴だった。
直射日光を浴びないように帽子を装着していたのに、それでも降り注ぐ光の暴力によって反射的にどでかいクシャミがでた。
太陽光を直視した際にクシャミが出る現象のことを『光くしゃみ反射』というらしい。
この症状は日本人の約25%の人に認められている遺伝性のものである。どうでもいいことだが、主な症状は眩しさを感じるとクシャミが出る、それだけだ。たぶん俺のご先祖様はモグラかミミズだったのだろう。

そんなことを考えながらとぼとぼ歩いていると、ほどなくして公園に到着した。
近くにあったベンチに座って満開の桜並木を見物する。
『ひとひら』というか、大量の花びらが頭上から降ってきた。肩に積もった桜の花びらを埃でもはらうように排除する。風情の欠片もない。
しばらくの間ボケっと桜を眺める。
…詩的な言い回しはおろか、本日のテーマ『ひとひら』に関するネタすら降ってこない。
歳のせいか、それとも元から空虚な人間性なのが原因か、とにかく感受性の燃料が完全に枯渇している。
ベツに拗らせて斜に構えているわけではない。桜を見たら俺だって『綺麗だな~』って思う。『綺麗だなぁ』って思った後、3分くらいで『さあ花も見たし帰るか』ってなるだけだ。
…言い訳したつもりなのに文章にすると尚のこと拗らせた嫌なやつに見えてくるのが不思議だ。
無言でベンチから立ち上がる。
そもそも正味の話、花見が目的で外出したわけではない。
俺は帰りにスーパーに立ち寄って、ボディーソープと台所用洗剤と酒を購入して自宅に帰宅した。

ボロアパートに帰って上着のパーカーを脱ぐ。
この時、花見の際に付着していた桜の花びらが『ひとひら』パーカーから零れ落ちてくれれば、なんだか良い感じに話をまとめられたのになぁ、と、ふと思った。
…現実はそんなに甘くないか。

4/14/2025, 5:35:07 AM