お題『朝日の温もり』
前の主様が亡くなってすぐのこと。
残された、生まれて間もない今の主様のお世話にてんてこ舞いの日々を送っていた。
泣けばお腹が空いているのかな、それともオムツが濡れているのかな、といろいろ気を使ったけど、どちらでもなく泣いているのには本当に参った。
執事全員でお世話にあたったけどなぜか俺が抱っこをすれば夜泣きがおさまると分かって以来、夜のお世話はもっぱら俺。
しかし俺の抱っこで泣き止むとはいえ、眠ったのを見計らってベッドに下ろせば、手を離した瞬間に泣きだす始末で、俺は満足に眠れない日々を送っていた。
ある夜、やはり俺は主様のお世話をしていた。
その日は夜泣きが特に激しく、俺もほとほと参っていたこともあって、少しでも気分を上げたくて明け方近くに見張り台まで星を見に出た。寒空の下に幼い赤ん坊を外に連れ出すなんて今にして思えばどうかしていると思うけど、当時はその判断力が鈍るほど神経がすり減っていた。
空をあおげば、一面の星空。
「主様、まだ分からないとは思いますが、お空がきらきらと輝いていますよ」
するとどうだろうか、顔を真っ赤に染めて泣いていた主様が笑ったのだ。
その日を境に、よく主様を夜の見張り台にお連れするようになった。
明け方に響く笑い声は、俺にとって闇夜に差し込んだ陽の光のように温かさとなった。
6/9/2023, 1:32:10 PM