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 あの日、この場所で、お互いに精一杯腕を空に向かって伸ばし、手の平を一杯に広げ、それらを力一杯、左右に振った。当時の事を、あの子の事を、はっきりと記憶している訳ではない。こうして思い出す度、私の脳裏に浮かぶのは、あの必死の動作の少し前、お互いの母親の少し前を歩く私達が、こうしていれば離れる刻限までが長くなるのではないかと、いつもより握り締めていた手。それが今よりずうっと幼く、重い足取りで別れ道に向かっていく靴は小さく、下を向いていたお互いに気づき、まだまだ話したいと、「もうちょっとだね」なんて、些末な話題しか出てこない事に、はにかんだ。そんなことばかりだ。
 別れ道に着くと、彼方側は早足で去って行ったように思う。母親同士は、特に仲が良い様子では無かったから、会釈をするだけで別れの会話も無く、あの子は手を引かれて行った。寂しくて、名残惜しくて、静かに佇んでいた。幾らか進んで、私も自身の母親に、「帰ろうか」と声を掛けられた時、あの子が立ち止まって此方を向き、冒頭の動作をし合い、短い言葉を交わした。まるで、それまでの日常のように。
 そんな事を思い出しながら、私は小さな手を取った。

「帰ろうか」
「うん。じゃあね!」
「じゃあね!」


テーマ:「君と最後に会った日」

6/26/2024, 12:30:19 PM