どれだけ喰うなと言われても、腹が減るのは仕方ない。
父親は目の前で、流れ弾で死んだ。
後から見つけて、衝撃を受けた。
芽生えた暗い要望に手を伸ばした。
この衝動になんて名前を付けようか。
ジェイドは奥歯を噛み締めて、袖で口周りを拭った。
「ジェイド、アレ見てよ。綺麗」
白い指先が示す方向には、黄色い正円。
「ホントだ。ベランダからでもこんなに見えるんだね」
「ねー」
何故か自慢げな彼女。
月よりも、鮮やかな首の白に視線を奪われる。
ダメだダメだ。
頭を振って意識を正す。
「ジェイド?」
覗き込まれているのに気づいて、背筋が痺れる錯覚が生まれた。
急いで顔を背ける。
「ごめん、ちょっと飲みすぎたのかも」
「たしかに結構飲んでたもんね。じゃあ部屋戻ろうか」
そうだね、と部屋に戻る。
彼女はベッドに仰向けに寝転がる。
僕に両手を広げて伸ばした。
何かが切れたような音が、聞こえた。
美味しいものは好きだけど、食べたらなくなってしまう。
そのことが悲しい。
窓から月光が差していた。
月光が照らす、赤色を頬張った。
止まらない涙を袖で拭って、食べ続けた。
腹は満ちていくのに、飢えて仕方がなかった。
3/2/2023, 9:28:46 AM