【透明な水】
周りが揺らいで見える。何かが込み上げてくるのだ。
周りの音はよく聞こえない。もう何も聞きたくない。
息をしているのかも分からないほどに苦しい。いっそ息をしなくてもいいんじゃないかとさえ思った。
私は透明な水に囚われているようであった。
発した声は自らにこだまするだけで、周りには聞こえない。
酷く荒々しい波のような私の心とは裏腹に、周りはさざなみのような静けさに包まれていた。
「私は…」
声にならない言葉だった。
何を考えても、ついに辿り着く場所はいつも同じであった。
周りが見えない。
周りの音はよく聞こえない。
息をしているのかを気にすることもない。
冷たい水に囚われているようであった。
言葉を発する力もなく、ただ自らの中で考えることしかできない。
崖にぶつかる波のように騒々しい周りとは裏腹に、私は夕凪のように落ち着いていた。
声は要らなかった。
多くを考えて、ついにたどり着いた場所はここであった。
5/21/2023, 1:05:08 PM