あぁ
君のことを思うたびこの胸の高鳴りは止まらないよ
どうすれば、君にこの気持ちを伝えられる?
僕はもうこんなにも恋に落ちている
届け僕の熱い思い
きっと受け入れてくれるよねMy Heart
今すぐにでもI want you
君とならどこまでも駆け抜けていけそうさ
さぁ
僕らの羽根を休めるにはまだ早い
恐れないで
僕を見つめて
君の瞳に今からTake offするから
「みたいなことを書き綴っていたポエムノートを何処かに落としてしまったんだ」
「それ、死んだほうがマシなヤツだな」
「あぁ……」
昨日からいつも持参しているノートがない。そこには僕の愛の叫びが惜しげもなく書き記されている。いわゆる僕の趣味だ。その、僕の痛々しい本性を唯一知っている友人にこのことを打ち明けたら憐れんだ目で僕を見てきた。
「とりあえず、どーするよ?思い当たる場所はもう探したんだろ?」
「探した。けど無かった」
「じゃもう誰かが拾ったんだな」
「おそらくそうだろうな」
「ワンチャン、センコーが拾ってくれればいいのにな?そしたら別にそこまで大ごとにならないで済むんじゃね?」
「まぁ……そのほうが傷は浅いのかもしれない」
「あの、」
僕らの会話の中に1人の女子生徒が入ってきた。確か隣のクラスの子。あんまり話したことはないが顔は知っていた。そして、その彼女が手にしているのがA6サイズの見慣れたノートだと知った瞬間、全身の毛穴から一気に汗が吹き出てきた。
「そ、そそそそそそそそ、それ、は……」
「やっぱり、七瀬くんのだったんだね。はいこれ」
「や、あ、ど、なっ、あ、その、がはっ」
「落ち着けよお前」
友人が僕の背中をばしんと叩く。息を吸うことをすっかり忘れていた。気を取り直して、いや取り直すなんてもう無理なんだけどさっきより気持ちが落ち着いたので僕は彼女に話しかける。
「これ、どこにありましたか?あっ、拾ってくれてありがとう」
「学食のテーブルに置かれてたよ。もしかして昼休み行ったんじゃない?」
「行きました……」
「うわあ」
僕も友人も考えていることは多分同じだ。このノートは学食なんていう大勢の生徒が行き来する場所に放置されていた。ということはつまり、ノートの中身を見たのは彼女だけじゃない。何人、いや、何十人もの生徒たちが僕の愛の言霊を読んで笑いものにしたんだろう。どうしよう、汗が止まらない。おまけに目眩までしてきた。友人の言うとおり、いっそ死んだほうがマシなのかもしれない。
「ごめんね、誰のだろうと思ってちょっと中見ちゃったんだけど……」
「ヒイ」
「七瀬くんって、すごくロマンチックな人なのね。じゃあね」
「へ……?」
てっきり、“キモイウザイヘンタイ”のたぐいの言葉を浴びせられるかと思ったのに。そうではなくて、彼女の口から出たのは、まさかの称賛だった。
「おい、やったじゃねーか!」
やった……のか、これは。分からないけど、彼女は僕にそれ以上追求することなく行ってしまった。僕は阿呆みたいに、彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。やがえ姿が消えても、ずっと。
「多分お前のそのノートの中身に共感したんだろうな」
「そうなのか……?」
「だとしたら、やることは1つだ。そうだろ?七瀬」
「お?」
「その隠れてコソコソ書き溜めたクサイ言葉集を今こそその口で言うんだよ。もちろん、2人きりの場所で」
「な、なんだって」
「俺がお膳立てしてやるからよ。そしたらお前、晴れて初彼女ゲットだ。ついでに……童貞卒業も近いかもしれねーなぁ?」
友人が意地悪くにやりと笑う。余計なお世話だ、と反論したが、はたしてそんなことあり得るのか?
「それまでに、新作作っとけよ」
「お、おお」
なんだかよく分からないが、できる気がしてきた。
そうだ。僕はやればできる子なのだ。あの子にだってきっと届く。待っててくれ。この僕のおさまらないMy Heartを、胸のビートに刻みつけてやるからさ!
3/28/2024, 9:54:38 AM