「お前、いい加減やめろ」
なんのことかわからなくて首を傾げると、肩を掴まれる。
「いっ……」
「痩せ我慢するなよ。無駄に張り切るな。本番はこれからなんだぞ」
そんなつもりはない。と言っても、たぶんあなたは納得してくれない。
だって、もうすぐ長年の悲願が叶う大事なときだから。
立ち止まりたくなんかない。
「意外と深くない傷だから安心して。足手まといにはならない」
反論しようとする彼をまっすぐに見上げた。掴んだままの手をゆっくり外して、そのまま握る。
「もうすぐなんだから、大丈夫。もしやばそうなら声をかけるから」
本当はわかってる。
私にかけた言葉は全部、自分自身に言い聞かせてるんだよね。
頑張って隠しているみたいだけど、誰よりも、私よりも、願望が達成される瞬間を待ち焦がれていることを知っている。隠している理由もなんとなくわかる。
私は、代わり。
私は、あなたが気持ちをぶつけられる場所。
あなたは安心して、願いをかなえて。
お題:何でもないフリ
12/12/2023, 8:04:11 AM