ノイシュ

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キャンドル
想い出
宝物
どうすればいいの?

「どれにしますか」
誰かに話しかけられたようで、重いまぶたを開けると紳士がいた。
知らない場所だった。店内は紳士と私しかいない。辺りはしんとしていて、広さも六畳くらいとそんなに広くはなさそうだった。アンティーク調の机の上にはずらりと火のついたキャンドルが並べられている。
きっとアロマ系のお店なのだろう。しかし私がなぜここにいるのかが分からなかった。
「すみません。ここは何のお店なのでしょうか」
と私は聞いてみた。
しかし目の前の紳士は私の疑問に答える気はないようで、
「どれにしますか」と返すだけだった。
どうしたらいいものか。正直をいえば、早くこの場所から逃げ出したかった。紳士は私を見つめたまま表情を変えないし、部屋は薄暗い。なによりキャンドルが何時までたっても消える気配がないのがなにより不気味だった。
もう紳士の要望に答えるしかないようだ。
「どれにしますか」
「じゃあこれにします」
適当に目の前のキャンドルを指差す。
「では火を消してください」
紳士ははじめて違う言葉を口にする。
私が選んだキャンドルの隣には既に火が消えたキャンドルがあった。私の前にもお客さんがいたのだろうか。何故か消してはいけないような気がしてならない。だから私は不安の気持ちを拭うように質問をした。
「火を消したらどうなりますか」
「では火を消してください」
また紳士は同じ言葉を繰り返す。
「火を消したらどうなりますか」
「では火を消してください」
「火を消したらどうなりますか」
「では火を消してください」

もう堪らなかった。一刻も早くここから出たい。
一刻もはやく。
だから私は


ふっ


キャンドルの火が消える。
その瞬間私の体が軽くなったような気がした。
手足はある。
心臓も動いている。
だが何かが足りない。
その何かが思い出せない。

「どれにしますか」
紳士は私に投げかけた。
目の前にはずらりと並べれたキャンドルが悠々と燃えていた。

11/21/2024, 1:14:44 PM