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ティラティラと星が輝く店にて会ったとある2人の男女のお話。
キラキラではなくティラティラと輝く店を。

俺はとあるレストランに食べに来た。
ニュースで有名だと言ってそれに流されて食べに行く訳では無いが、友人が「食べに行こう」とうるさくて、嫌々来てしまった。
あまりにもティラティラしてて、目が潰れそうだ。
豪華な料理が並ぶ。思わず唾を飲んだ。
並んでても分かる距離の料理。部屋の奥から料理の匂いが届く。とてもいい匂い。
―――ただ、眩しい。目が潰れそうなほど。

ようやく順番が来た。人が多いと少し大変だな。
忙しく働くレストランの店員。
「どうだ?ここいいだろ」
「人が多くて大変だな」
「違いねぇ」
「おれはパスタを取りに行ってくる」
「りょ」
りょは、了解という意味。

ミートソースパスタが大好物だ。それを取りに行くと、隣に来た女性に一目惚れした。
いや、早いとは思うが……あまりにも美しかったもので……
「あの、」
「あ、先でしたか?」
「いえ、あの、……とてもお綺麗ですね」
「うふふっ、ありがとうございます」
笑った彼女の顔が、とても優しかった。
整った顔に、ティラティラ光る髪。おれは文字通り、「開いた口が塞がらない」という状態になった。
「あの、大好きです……」という言葉が出てしまったが、すかさず「パスタ」を付け足して誤魔化した。
「あぁ!私も大好きですよ!パスタ!美味しいですよね」
ニコッと笑う彼女の笑顔は、無邪気な子供みたいでした。
「はい、ではまた縁がありましたら……」
「はい!またお会い出来たら!」
おれは、パスタを食べたあと、店を後にし帰宅した。
友人に、「なんか恋したか?」と聞かれた。
「いや、別に何も無かった。ただ、パスタが美味かった。」
澄まし顔で嘘をついた。
「なんじゃそりゃ。でもまぁ、お前らしいな!」
そう、何も無かった……おれは、そう思い込むしか無かったのだ。おれには、彼女に釣り合う程の何かを持っていないのだから、忘れよう。

これは失恋の物語。はじまりは、星が輝くレストランにて。

6/3/2022, 11:03:27 PM