思い返すと、彼はいわゆるナルシストに分類されたのかもしれない。
常に自分が優位であろうとしたし、自分より
実力が上の相手には、女性経験の数で勝ると宣った。
田舎出身で男性に免疫の無かった私は、そんな彼を自尊心が高くて漢らしい人だと、すっかり誤った解釈をしていた。
彼と恋人関係になって、深夜に女の子達が来訪しても、彼はなんて後輩の面倒見が良い人なのだろうと思う始末だった。
盲目になっていた自分に気付かないふりをして過ごした私は、だんだんと彼のペースについていけなくなった。
好きならして当たり前のようなことの、認識のズレが、関係にヒビを入れ、修復不可能な域に達し、私たちは別れた。
踏切待ちが、二人でいる最後の場面となり、別れ際のキスさえ強く拒むほどに、私は彼と穏やか時間を過ごすことが出来なくなっていた。
それからお互い大学を卒業し、一度も連絡を取り合ったり、再会することはなかった。
彼の近況を知ったのは、ネットニュースだった。
人工授精の研究において、新たな技術試験を行い、予想以上の功績をあげたようだった。
"おしどり夫婦、念願の成功"
記事の表題を見つめ、私は、おめでとうと呟いた。
#届かぬ思い
4/16/2024, 6:06:04 AM