魔法
「魔女目線の人魚姫」
十五の誕生日祝いに一人深海の人魚が住む世界から水面に行く許しを得た人魚姫は、深い深い闇が暗転幕の様に、海の世界と陸の世界を遮る幕の向こうから、月の光に導かれ水面に手を伸ばし進みました。海の底より空気が濃いそこは人魚姫の胸を落ちつぶしてしまいそうでした。
人魚姫は、水面にようやく顔を出し月明かりに照らされる陸の世界を目の当たりにしました。
宇宙(そら)と海の間に幾つもの光る貝を思わせる輝くものが揺れていて、生まれて始めて聞く風の音に乗って聞こえる音楽を耳にしました。人魚姫は高鳴る胸をおさえて、大きな岩のところまで辿り着き、岩に登って、その明かりから聞こえて来る音に耳を澄ませていました。光の中に脚のある生きものが沢山見えて、その音に合わせて踊っています。人魚姫は自分もあの光の中で踊ってみたいと思いましたが、ふと自分の脚を見ると脚は無く、鱗に覆われた尾鰭がありました。人魚姫は切なくなって岩場から海に飛び込み海の底の自分の世界に戻ります。来る日も来る日も月の明かりに取り憑かれたように地上を目指す人魚姫はある夜、嵐の水面に顔を出しました、月に騙されたのでした。月が隠れた大粒の石の様な雨とゴォーゴォーと闇を裂く風の音の中に、あの何時も見る煌めく明かりが激しく揺れやがて波に飲み込まれてしまったのでした。尾鰭を持たない生きもの達が一斉に海に投げ出されるのを見た人魚姫は慌てて助けようとしますが、人魚姫一人では救い切れず、人魚姫は、どうにかこうにか一人の王子様を救うのが精一杯でした。どうにかその王子様を波打ち際に戻し、息があることを確かめると、ようやく顔を出した意地の悪い月の明かりに嵐が去ったことを知らされ海の底に帰ったのでした。
あの嵐の夜から、人魚姫は助けた王子様のことが気になって仕方がありませんでした。たったひと目嵐の夜に助けただけで運命を感じてしまった人魚姫は人間になりたいと父母に打ち明けます。父は激怒し母は泣き崩れました。人魚姫を激しく怒鳴り平手打ちしようとする父を人魚姫の姉たちが必死に止めました。人魚姫は健気にも一途で強情で父に思いをぶつけ、思い余った父は人魚姫を座敷牢に軟禁してしまいます。「頭を冷やせ!」父の背中に人魚姫の泣き叫ぶ声が響きます。父は人魚姫に背を向けたまま目を落とし苦悩する顔を覗かせましたが、その顔は人魚姫には届きません。
三日三晩泣き続けた人魚姫は、思い通りにならないことを恨み卑下し泣き続けていました。それを見ていた、母は心を痛め、深海の森に住む魔女に相談しました。魔女は、「人魚姫は十五の満月の魔法を月に掛けられてしまったのだ」と言いました。「今は、人魚姫の言う通り逃がしてやりなさい、そして人間になりたくば、この魔女のところに来るように人魚姫に伝えなさい」と母に告げました。母は深海の森の魔女を信じ言う通り、人魚姫を座敷牢から出し父の目を盗み深海の森に住む魔女のところに行けと人魚姫に告げました。
人魚姫は、棘の出た長い蔓の絡まる細い路を母に言われた通りに進み、魔女のところまでやって来ました。
「人魚姫、お前はそんなに人間になりたいか?」
「はい、もしも願いをお聞き入れ下さるならなんでも致します」
「そうか、では、お前に脚を授け人間の姿にするためには、その尾鰭を取り、深海まで戻れなくしなければならないが良いか?そして、この世界のことを口外しない為に声も無くすが良いか?」と尋ねました。今はただ人間の姿になってあの王子様と踊ることしか胸にない人魚姫は
「はい、構いません、私を人間の姿にしてください」と即答します。
魔女は、魔法をかけた人魚の鱗の欠片を人魚姫に飲ませました。
人魚姫は、波打ち際に気を失い白い羽衣を一枚掛けられただけの姿で倒れていました。やっと目覚めた時、あの日助けた王子様の乗る船に助けられて居たのでした。王子様はこの船の主の息子、船は商船幾つもの街を商売して渡る船でした。あの嵐の夜海に投げ出された王子を助けたのが人魚姫でしたがそれは誰も知り得ません、王子様当人さえも、人魚姫は助けられ名を王子様に尋ねられますが声を脚のかわりに魔女に差し出したので話せません、悲しくなりましたが、自分には王子様と同じ脚があることに気づき嬉しさに飛び跳ねます。何故だか、人魚姫に見覚えがある気がしてならない王子様は人魚姫に「シーノ」と名付け丁寧に接するように召使いに命じます。
王子様との運命的な出会いと再会人魚姫シーノは、月を見上げ秋でもないのに天馬ペガサスが
夜空から自分と王子様を迎えに駆けてきて、王子様は、その天馬ペガサスに飛ぶ様に跨り乗ると人魚姫に手を差し出すという夢に浸っていました。けれど、歩き慣れていない脚は立っているだけでも辛く、踊ると悲鳴をあげるくらいに痛く、赤く腫れ上がり血が滲みます。人魚姫は声にならない声をあげ泣きました、海を見つめて、叱責する父の姿と泣き崩れた母の姿と心配する姉妹の顔とが思い出され海を見つめてただ泣きました、この脚では歩くことさえ難しく、この体では海の底へ戻ることも叶わない、もう死んでしまいたいと泣きました。
その時、海の底から姉妹が顔を出し、魔女の言葉を伝えます。「お前の覚悟はそんなものか?ならばお前を元の姿に戻してやろう、この剣で王子の心臓をひと突きにし心臓を取り出して海に身投げしたお前の口に入れ替えれば、お前にもう一度、命を与え人魚の体に戻す魔法をかけられる、もう一度魔法の力が必要か?もうしてみよ!」魔女の言葉に天を見上げた人魚姫に魔女は続けます「お前は、十五の満月の魔法にかかかり、幻想に迷って多くの信頼を傷つけ捨てた、一度は許してやる、十五の満月の魔法だからだ。お前は自ら選んだ路を十五の満月の魔法せいでしたとするか?その自ら選んだ路を誰のせいにもせずに受け入れて進むか?説明はしたはずだ、脚のかわりに声は無くなる、その姿では深海には戻れない、どうするか自分で決めよ」
魔女の言葉に人魚姫は揺れる水面を見つめ考えます。姉たちが、魔女から渡された剣を持ち上げ人魚姫に手渡そうとします。人魚姫の脳裏に厳しくも何時も愛情深く見守っていてくれた父母の顔が浮かびます。
人魚姫は、夜空に涙を預けました。そして、きっぱりと言いました。「父様、母様、お姉様たち、私は自分で選んだ路に泣きません、必ず生き抜いて見せます」と。そう言って魔女の魔法に頼らず魔女が魔法でくれた人生を受け入れて背負うことを誓いました。
姉たちは、心配そうに顔を見合わせ深海へ帰って行きました。
それから、人魚姫は血が脚から潮の様に吹き上げる程の痛みと苦しみに耐え、王子様と共に歩き共に踊る様になりました。
言葉は伝えたい想いは今宵の今宵までの人知れず長いドレスのしたで流した血と共にありましたが音にはならず。人魚姫はあの十五の夜に見た煌めく貝の様な光と音楽の中で王子様に抱かれて踊っていました。
魔女が、人魚姫の涙を天にあげ星に変えると流れ星が流れました。
人魚の涙は血の色、鮮血が引き裂かれた様な雫
王子様が、その流れ星に願いをかけていました。
「彼女の声を聞かせてください」
流れ星は、静かに「イエス」と彼女に魔法をかけて消えました。
アンデルセン「人魚姫」リスペクトオマージュ
令和7年2月23日 心幸
後書き
得意なことだけで生きていては成長はないですねwww 「そもそもそこに季語ないですね」成長の魔法の呪文www
霜柱 足跡ふたつ サクサクと
守ってやるって独り善がりが一番みっともなかったねwww 謙虚になろう。
2/23/2025, 1:19:02 PM