待ってて
不意にあなたはいつもハッとした表情になる。私には聞こえない微かな…ほんの僅かな誰かの縋る声を察知しまっすぐ前を見据えその瞳が凛と鋭くなるその瞬間が私はとても好きだ。そしてとても寂しい。
「ごめん、行ってくる」
その言葉と共に凄まじいスピードで貴方は今日も誰かの希望になる。その瞬間からあなたが帰ってくる瞬間まで私の不安は続く。
ある時あなたは帰ってこなかった。
一年、三年、五年……そして十年が過ぎた。
いい加減に諦めたら?と周りは言う。私も何処かで分かっていた。けれど…
そしてまた三年が経ったある日、あっさりあなたは帰ってきた。照れ臭そうに笑いながら。
そしてまたハッとした表情を浮かべる。
「ごめん、行ってくる」
一瞬で姿は見えなくなる。下を向いたその時見慣れた靴がそこにあった。
「忘れてた、行ってきます。必ず帰るから安心して待ってて?」
その言葉を聞いた瞬間目から涙が溢れた。
「いってらっしゃい。」
やっと言えた。
2/13/2023, 2:37:44 PM